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広島高等裁判所 昭和35年(ネ)238号 判決 1965年10月26日

山口市下金古曾七番地

控訴人

矢次喜一

山口市今道

被控訴人

山口税務署長

岩見忠義

右指定代理人

鴨井孝之

大下助一

常本一三

吉富正輝

浅田和男

右当事者間の所得税課税標準更正決定取消請求控訴事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和二五年二月二八日付をもつてなした控訴人の昭和二四年度分所得税についてその所得金額を金六〇万円とした更正決定(但し広島国税局長の審査決定により金五四万五、〇〇〇円に減額された。)はこれを取り消す。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は、左記のほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

(一)  被控訴人は、控訴人の営業による収入金額を金一八一万九、一六六円五〇銭となし、これに所得率三〇%を乗じて算出した結果の金五四万五、〇〇〇円を所得金額と推計する旨主張するが、元来所得率を用いて推計するのは支出金額が不明確な場合に限られるべきものであるところ、被控訴人は控訴人の帳簿書類ならびに外部資料等によつて控訴人の支出を金一七四万余円と算出しているので、本件においては所得率を用いることは許されず、右支出金額を収入金額から差し引けば足り、その差額金七万円余が所得金額となる。

(二)  被控訴人主張の所得率三〇%は、理由根拠に乏しい一般的な所得標準率表に従うもので、これを控訴人の昭和二四年度所得に適用することは失当である。控訴人がその営業を会社組織に改めてからの所得率は、昭和二七年一月ないし六月は一三・三%、以下各年度につき一〇・五%、九・八%、一一・一%(何れも個人営業所得に換算した率である。)であつて、何れも被控訴人によつて認められているところであり、昭和二四年度における所得率もこれに準ずべきもので大差のないことは経験則上疑の余地がないから、控訴人の業態を度外視して一般所得標準率三〇%を用いることの失当なることは明白である。

(被控訴代理人の主張)

(一)  本件更正処分に対する審査決定にあたり、控訴人の昭和二四年度における支出金額が金一七四万余円であることが判明していたのではないから、損益計算の方法をとることなく、利益率によつて同年度の控訴人の所得金額を金五四万五、〇〇〇円と推計したことは正当である。

(二)  控訴人がその営業を会社組織に改めてからの利益率によつて控訴人の個人営業の時期における所得を推計することはできない、利益率は、会社組織による営業に比して個人営業における方がよいことは一般常識であるのみならず、控訴人の場合、会社組織になつてからの売上金額は著しく増加し、被控訴人が本件昭和二四年度における所得推計の基礎とせんとする売上金額に比し、例えば昭和二七年七月から昭和二八年六月までの年間売上高はその約三二九%に該り、営業規模が明らかに相違するので、利益率が低下するのは当然である。

(証拠関係)

控訴人は、甲第四号証を提出し、当審証人長富保・同常本一三・同山内貢・同山根三郎の各証言および当審における控訴本人尋問の結果を援用し、乙第三〇号証の成立については不知、同第三一ないし第三三号各証の成立は認める、と述べ、被控訴代理人は、乙第三〇号証、第三一および第三二号証の各一・二、第三三号証の一ないし三を提出し、当審証人文岡章祐の証言を援用し、甲第四号証の成立を認めた。

なお原判決摘示の被控訴代理人の主張事実中、二の(四)の預金額六三万四、五九〇円は五七万二、〇四九円の、また三の(二)の(3)の売上脱漏金額七四万八、〇八三円は七万四、〇八三円の各誤りであり、控訴人援用の証拠中原審証人未永倖一の証言が脱落しているので、それぞれ訂正補足する。

理由

当裁判所も、被控訴人が昭和二五年二月二八日付をもつてなした被控訴人の昭和二四年分所得税に関する所得金額を金六〇万円とする更正決定は、広島国税局長の審査決定において認められた、右所得金額を金五四万五、〇〇〇円とする限度においては正当であつて、これを違法とすべき点は存しないものと認める。その理由は、次に附加訂正するほか、原判決判示のとおりであるから、これを引用する。

(一)  控訴人は、被控訴人が控訴人の同年度における支出金額を把握しながら、損益計算の方法をとらず、利益率によつて収入金額から所得を推計した違法がある旨攻撃する。しかし、右に引用した原判決の判示するとおり、控訴人備付の帳簿類は、実際の営業状態を真実かつ正確に反映していなくて、これを基礎とした調査によつては、控訴人の収入金額および支出金額を的確に認定することはできないものである。原審において被控訴人の陳述した準備書面には、支出金額一七四万余円なる記載があるが、これは控訴人の帳簿に記載されている支出額から税務計算上当然否認されるべき支出を差し引いた残額であつて、仮にこれを全部真実の支出としても、被控訴人の調査によれば多額の売上脱漏が推測されるため、控訴人の所得金額が審査決定額を下回ることにはならないことを主張したものにほかならず、右金額を真実の支出金額と認めた趣旨でないことは、当審証人長富保・同常本一三の各証言および弁論の全趣旨に照らして明らかである。控訴人の主張は、右の記載を曲解し、真実の支出金額が判明しているとの前提に立つもので、採用の限りでない。

(二)  また控訴人は、被控訴人が所得推計の根拠として主張する三〇%の利益率の不当を主張する。しかし、原審証人岡崎吉郎の証言とこれによつて真正に成立したものと認められる乙第八号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第九号証、原審証人末水倖一の証言とこれによつて真正に成立したものと認められる乙第一〇号証、成立に争いのない乙第二四号証、当審証人文岡章祐の証言とこれによつて真正に成立したものと認められる乙第三〇号証、原審証人石井利助の証言を綜合すると、山口市内において控訴人と同業の家具建具類の製造および販売を営む者の昭和二四年度における総収入金額に対する純利益の割合は、概ね三〇%をやや上廻る程度であり、税務官庁の調査に対しても、右三〇%の利益率を同業者が一般に承認していたことを認めることができる。当審証人山内貢・原審および当審証人山根三郎ならびに原審および当審における控訴本人尋問の結果によつては、未だ右認定を覆えすことはできない。それ故右三〇%の利益率を本件控訴人の所得推計の根拠とすることは、合理性を欠くものとはいえない。

(三)  原判決理由のうち、二の(二)の(1)記載の収入現金額一四四万三、六一〇円二〇銭は一四四万三、一八〇円二〇銭に、従つて預金勘定を加えた売上総額一六八万七、六一一円は一六八万七、一八一円に、各訂正する。原判決掲記の帳簿上認められる売上高は、(2)の雑収入を別にすれば、右に訂正した金額にとどまる。

また同(4)記載の売上脱漏金額のうち、(チ)は削除する。右に照応する取引は乙第四号証の二によつて認められるけれども、これが甲第一号証・乙第一号証の二に記載されている同じ相手方との間の同日付売買中に包含されない別個の取引であると認めるに足りるだけの証拠はないので、売上脱漏分とは断じがたい。従つて売上脱漏金額合計七万三、六五三円とあるのを七万一、七五三円に訂正しなければならない。

それ故、控訴人の昭和二四年度における総収入金額は、一八一万六、八三六円五〇銭となり、これに利益率三〇%を乗じて控訴人の所得金額を推計すべきものとすると、その額は五四万五、〇五〇円九五銭となる。

以上のとおりであるから、右認定の所得金額の範囲内で、控訴人の昭和二四年度分所得税の課税標準たる総所得金額を五四万五、〇〇〇とした審査決定額の限度においては、本件更正処分にはこれを違法とすべき理由はないものといわなければならない。

よつて控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないので、民事訴訟法第三八四条・第九九条・第八九条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三宅芳郎 裁判官 西俣信比古 裁判官 横山長)

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